- 郵便配達 -

彼は新聞配達のアルバイトをしていた。
夜中2時に起き、当日分が終わるまで配達する仕事だった。

いつも通り仕事を始めた彼は
少し喉の渇きを感じたので
コンビニに寄ろうとし、
バイクを留めかけたとき
街灯に照らされて寂しそうに佇む女を見つけた。

こんな時間にうろついてると危ないよ、
と彼は声をかけると女は少し苦笑し
あなたは何をしてるんですか、と聞き返してきた。
新聞配達の途中だ、と彼が説明すると
なら少し乗せていってくれないかと女は頼んできた。

怪しい女と一緒にドライブするなど
普段の彼なら断っただろうが、
深夜一人で新聞配達をするのが
寂しかった彼はその申し出を快く引き受けた。

こうして彼と女は新聞配達の間だけ
二人でいる不思議な関係になった。

女と一緒に新聞配達をし始めて
一週間くらい経ったとき
女がもっと他の場所にも行ってみたいなと言いだした。

彼は毎日新聞配達に付き合ってもらっているので
お礼としてその申し出も引き受けた。
彼は配達の場所を変更してもらい、新しい場所の担当となった。

新しい場所の担当になり
地図を見ながら配達していると
女がある地名を指してここに行ってほしいと言いだした。
そこにもちょうど配達物がたくさんあるので
喜んで了承し、その場所へ向かった。

そこは住宅街でとにかく配達物が多かったので、
彼はバイクで女は徒歩で手分けして配達することにした。

しばらく配達したあと女の方を見に行くと
ある家の前の表札をじっと見ていた。
彼がどうしたのか聞いてもずっと見ているだけで何も答えない。

それから彼がしばらく待っていると
女が一言ぽつりと言った。
「この家…私を捨てたこの家…」と。

彼はそこからの記憶が曖昧だそうだが
これだけは確実に言えるそうだ。
あの女は人間じゃないと。

それからあの女は彼の前に姿を見せないし、
あのとき女が立っていた家がどうしても見つからないそうだ。

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