- だるまさんがころんだ -

ある夏の日僕が親しい友人たちと
飲み会をしているとそこに
女の子グループが紛れ込んできて
せっかく夏なんだし怪談をしようという話になった。

怪談と言っても僕たちは酒が入っていたので
くだらない下ネタを織り交ぜた
馬鹿馬鹿しい名ばかりの怪談ばかり話しました。
それに飽きてきてみんなが静かになってきた頃、
それまであまりしゃべらなかった女の子がいきなり口を開いた。

風呂場で髪を洗っているとき、
「だるまさんがころんだ」と言うと
不吉なことが起こるという都市伝説がありますよね。

私もその都市伝説に興味を惹かれて
実行した人の一人です。
これから、その日の話をしようと思います。

という前置きで彼女の話は始まった。

当時私が住んでいたアパートは
築30年の古くて狭くお風呂場も本当に
トイレと同じくらいの大きさだった。

浴槽には大人一人がやっと入れる大きさで
狭かったので私はいつもシャワーで済ましていました。

と、彼女の話がここまで進んだとき誰かが
「昔は太ってたんだな、ハハハ」と野次を飛ばしました。
彼女は野次に動じず、話を再開しました。

それでその日もいつものように
浴槽に入らずにシャワーで体を洗い
頭を洗おうとしてたんですよね。
それでふと頭になぜか「だるまさんがころんだ」という言葉が浮かんで
危うく口に出すところでしたが
例の都市伝説を思い出してすんでのところでぐっと堪えました。
ですが、人間というものは好奇心を我慢できないんですよね。
都市伝説を思い出しちゃったものですから確かめずにはいられない。

そのとき私は頭を洗い終わっていたので
またシャンプーを手に付けしゃかしゃかと頭を洗いはじめ、
近所にも聞こえるような大きな声で「だるまさんがころんだ」と叫びました。

なぜ叫んだのかは今でもわかりません。
ただ、叫んだ直後に私の母の葬式が頭に浮かんできました。
そのあと不意に悲しみが私を襲ってきて一人風呂場で泣き崩れました。

なぜか泣き止めなくて10分くらい泣いていました。
それでやっと少し動けるようになったので
頭を洗い流そうと蛇口の方、つまり浴槽の端の方を見た時でした。
視界の端に見たこともないようなきれいな女性の顔が写りました。

私がそっちを見ると、その女性はにっこりとほほ笑みかけてきたと同時に、
また悲しみが私を襲い、涙が自然とぽろぽろ落ちてきました。
どれほどの時間風呂場で泣いていたか分かりません。
やっとのことで立ちあがると急いで風呂場から出て
着替えるために鏡の前に立ったときです。
鏡に映った私の背後にさっきの女性が微笑んでいたのです。

ここまで話し終えたあと、彼女は急に泣き出しました。

「私に…ついてきてるの…そこの窓…見て…」

彼女は辛そうにこれだけ言い終わると居酒屋の窓を指しました。

僕は怖くて見ることが出来ませんでしたが
同僚がその窓を直視してしまいました。
すると、同僚が急に俯いたかと思うと肩が震えはじめたのです。
よく見ると…泣いているのでした。
母親への懺悔の言葉と思われるものを言いながら。

と同時くらいにさっきまで泣いていた女の子が
立ち上がり、急に涙を出しながら笑い出しました。
「あはははははは、やったぁ、やっとだぁ」

彼女はふらふらと居酒屋への出口へ歩きながら
「乗り移ってくれたぁ、あははははははぁ」と笑っていました。

「やったぁ、あははははは、笑いがぁ、とまらなぁいあはははははぁ」

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